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前橋家庭裁判所 昭和58年(家)1070号 審判

申立人 榛東村長 岡部市称

被相続人 村田トシ

主文

被相続人村田トシの相続財産管理人として、森田清子(本籍並びに住所群馬県北群馬郡榛東村大字○○○××××番地)を選任する。

理由

一  申立人は、被相続人村田トシの相続財産管理人を選任する旨の審判を求め、申立の実情として、被相続人トシは明治二八年四月一八日本籍地において死亡したがその相続人あることは不明であるところ、同人は登記簿上、他の二名とともに、北群馬郡榛東村大字○○○字○○××××番地墓地二五七平方メートル(以下、本件土地という。)の共有者となつており、榛東村は農道改良事業施行のため本件土地の一部を買収する必要があると述べている。

二  被相続人村田トシ、村田統伍の各除籍謄本、本件土地の登記簿謄本、当庁調査官○○○作成の調査報告書によれば、被相続人村田トシは、戸主であつた夫村田統伍の死亡後同家を家督相続したが、家族のないまま単身戸主として明治二八年四月一八日死亡し、六ヶ月後同家は絶家となつたこと(明治一七年六月一〇日太政官布告第二〇号)、本件土地は被相続人トシ外二名の共有(各持分三分の一)であつたところ、榛東村は○○○○地区農道改良事業のため本件土地の一部八・八三平方メートルを買受ける必要があることが認められる。

三  被相続人トシの死亡、同家の絶家は、明治民法(明治三一年六月二一日法律第九号民法第四編第五編、明治三一年七月一六日施行)施行前であるところ、明治民法施行前の絶家の遺留財産については、明治二八年当時は太政官達、太政官指令等により、「五箇年間親族又ハ戸長ニ於テ保管シ右年限後ハ親族ノ協議ニ任シ然ラサルモノハ官没スヘキモノ」とされていたが、民法施行法九二条により、明治民法施行前に右期間が未経過であつた場合については、明治民法一〇五一条以下の相続人曠缺の規定が適用されるに至つたと解すべきである(明治四一年一月九日第四八〇号民刑局長回答)しかるところ、昭和二二年五月二日から民法応急措置法が、同二三年一月一日から新民法(昭和二二年法律第六一号民法第四編第五編)が施行されたが、被相続人の死亡が応急措置法施行前であつても、新民法施行当時相続人不分明であつて旧民法の相続人曠缺手続が開始されていなかつた場合は、新民法の遡及的適用によつて法的安定性を害するおそれがないから同附則四条によつて新民法九五二条以下の相続人不存在の規定が適用されると解すべきである。

そして前記二の事実によれば、申立人は被相続人トシの相続財産について利害関係人に該るというべきであるから本件申立は理由がある。

よつて被相続人トシの相続財産管理人として主文掲記の森田清子を選任することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤村眞知子)

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